●けだるい午後(知世さん)●
「……ん…」
目が覚めた。と同時に、自分はいつの間に眠ってしまったんだろうと知世は思った。
自室でさくらに着てもらう衣装の仮縫いをしていた。
クーラーで涼しい部屋の中、細かい手作業をしていたら、疲れて眠くなるのもうなづけるか。
ソファーに横になっている彼女は、ゆっくりと起き上がった。右のほっぺたに、つっぱるような感触。手を触れると、小さい型紙が張り付いていた。
それを剥がし、テーブルに置いていた小さい鏡で顔を見る。
寝ぼけまなこの右ほっぺ、型紙の鉛筆の繊が絹のような肌にしっかりと写っていた。
「あらあら。顔を洗わねば…」
まだ夢見心地といった感じだ。どんな夢を見ていたのやら、頬が少し上気している。
「いえ、お風呂…ですわね」
体を触ってそう言う。
クーラーのタイマーが切れていた。それで室温が上がって、彼女は目が覚めたのだ。
首に絡む黒髪を丁寧に払いながら、ふと携帯電話に目をやる。留守番電話受信のマークが点滅していた。
知世はぼんやりと電話を取り、再生ボタンを押す。
「………………」
聞き終わって、
「ふううううぅぅぅ」
大きく深呼吸。そしてもう一度、再生を押す。
『あっ、知世ちゃん? もしかしてお出かけなのかなぁ? あのね、今晩うちで夕涼みをしようと思うの。…とは言っても、そうめんとか、花火とかしかないんだけどね。それで、知世ちゃん来ないかなーって。あ、でも、何か用事があって連絡がつかないんじゃ仕方ないよね。忙しくしてるのに無理に来てなんて言えないし。…えーと、どうしようかな〜。あの……』
プツッ。ここで録音時間いっぱいだ。実に彼女らしい。
「さくらちゃん……」
知世はふっと顔を伏せ…、
「さくらちゃんのお誘いならば、たとえ地球の裏側にいても駆け付けますわー!」
ばっちり目が覚めたようだ。
「え…と、今の時間は……。きゃあ! もうこんな時間! 早くさくらちゃんにお返事をして……」
彼女はいつものようにこぼれ落ちそうな笑みで、電話のボタンを押すのだった。
〜おしまい〜(2000/07/26 onozakura)
|