2月14日は、特別な日。大好きな人に「あなたが好きです」って伝える日。
大好きって気持ちをチョコレートと一緒に渡せる日。
お誕生日も大事、お正月も大好き、クリスマスも素敵。
でも、恋する人たちにとって一番大切なのは、2月14日のバレンタインデー。
(1)プロローグ
土曜日の昼下がり。
うららかな小春日和の日差しのなか、友枝小学校の生徒たちも授業が終わり、下校の途についていた。
さくらと知世も帰宅の道を並んで歩いている。
「今日の算数の小テスト、全然できなかったよぉ」
「さくらちゃんは、算数、苦手でしたものね」
「観月先生の授業は楽しいんだけど・・・。やっぱり難しいなぁ」
「ゆっくり考えれば、さくらちゃんにもきっとわかりますわ」
「うーん」
知世ちゃんはそうは言ってくれるけど、やっぱり算数は苦手だな。そう思うさくらである。
「そういえば、さくらちゃん。今年のバレンタインは、いかがされますの?」
「うん。今年は、チョコレートと一緒にマフラーを贈ろうと思っているんだぁ」
嬉しそうに答えるさくら。
「ここのところずっと、一所懸命に編んでいらっしゃいましたわ」
「いっぱい教えてもらったし、知世ちゃんのおかげだよ」
「そんなことありませんわ。さくらちゃん、頑張りましたもの」
「えへへ」
「それで、もう完成はしました?」
「実はまだ、出来ていないんだ・・・」
「間にあいそうですの?」
「がんばってみる!」
「月城さん、よろこんでくださるといいですね」
「うん」
頬を染めるさくら。雪兎のことを想像するとはにゃ〜ん状態になってしまうのだった。
「あらあら、さくらちゃんったら」
暫く、さくらのはにゃ〜ん状態を見て楽しんでいた知世であるが、ふと思い出したかのように訊ねた。
「それで、チョコレートの方はどうなさいますの?」
我に返るさくら。知世に声を掛けられなかったらいつまでもはにゃ〜ん状態であったことは言うまでもない。
「う−ん。マフラーで手いっぱいなんだけど・・・」
「だけど?」
「去年、割っちゃったから、今年も手作りしたいなぁ、って」
「まぁ、今年も手作りにしますのね」
「うん」
「では、今年もぜひ、ご一緒させてくださいな」
「う−ん。今年は知世ちゃんの分もつくりたいし、去年教えてもらったから、ひとりでがんばろうと思っているんだぁ」
「そうなんですかぁ」
とても残念そうな知世である。
「ごめんね」
すまなそうに謝るさくら。
「いいえ。それなら仕方ありませんわ。私もさくらちゃんのためにつくらないといけませんから」
心の中の失望をそっと隠して、それでさくらちゃんが幸せなら、それでいい。そう思い、微笑みながら答えるのだった。
「と、知世ちゃん」
ちょっと照れるさくら。去年も貰っているとはいえ、やはり照れるものらしい。
「楽しみにしていてくださいね」
「うん」
ここまで話したとき、友枝中央公園前のお別れの場所まで来てしまった。
「それじゃ、また月曜日に」
「また、月曜日」
「さよなら、知世ちゃん」
「さよなら、さくらちゃん」
知世はちょっと名残惜しそうな感じではあったが、手を振りながら自分の帰り道へと歩き出した。
さくらは、暫く知世を見守っていたが、その後、意を決したように呟いた。
「さぁ、がんばらなきゃ」
手をグッと握りしめ、掛け声をかけると元気よく駆け出していった。
(2)
今日は日曜日、朝食の片付けが終わってからさくらはキッチンに立ちっぱなしである。
何やら難しい表情でチョコレートに向かっている。
「ゆ・き・と・さ・ん・へ」
ホワイトチョコレ−トで名前を入れているのである。
失敗は許されない、緊張の一瞬である。
「さ・く・ら・よ・り」
ふぅぅ。
「で、できたぁ!」
「よく頑張ったね」
隣で見守っていた藤隆が笑顔で話しかける。
「うん」
今年も、なかなかよい出来のものができたようだ。
さくらの満足げな表情がそれを物語っていた。
暫く完成したチョコレートを見ていたさくらであるが、おもむろに、あることに気がついた。
「チョコはできたけど、マフラーがまだなんだよねぇ」
今までの笑顔が消えて、ちょっと困ったような表情をするさくら。
そうなのだ。チョコレートはできたが、マフラーがまだ出来ていないのだ。
「もうこんな時間なんだぁ」
時計を見て、慌てて後片づけを始めるさくら。思ったよりチョコレートつくりに時間が掛かってしまい、時間が足りなくなってしまったのだった。
午後9時、夕食も済まし、自分の部屋に戻ったさくらは一所懸命、マフラーと格闘している。
「ほぇぇ〜、おわらないよぉ」
「どないした?。宿題でも終わらんのか?」
「ちがうよぉ、あした、雪兎さんに渡すマフラーだよぉ」
「マフラー?。さくら、そんなもんつくっとったんか?」
「もうこんな時間だよう」
「おい、さくら?」
ケロの話につきあう余裕すら無いらしい。
そのあと、ケロが話しかけても、生返事ばかりで要領を得ない。そのうちケロも諦めて、テレビゲームを始めてしまった。
カチカチカチ。
時間が過ぎてゆく・・・。
飽きてしまったのかケロもテレビゲームを止め、さくらのベットでうたた寝をしている。
午後12時近くなっただろうか、それまで黙々とマフラーを編んでいたさくらが突然声をあげた。
「で、できたぁ!!」
その声に、ケロが目を覚ました。
「さくら?」
「できたよ。ケロちゃん」
嬉しそうにケロの手を取るさくら。
「ん〜ん?、何ができたんや?」
まだ寝ぼけているせいで、眠そうな表情で問いかけるケロ。
「マフラーだよ。雪兎さんにプレゼントするマフラー」
「そうか。それはよかったなぁ、さくら」
生返事をするケロ。しかしさくらは、そんなことは気にしていなかった。
「うん。なんとか間に合ったよぉ、これで明日、雪兎さんに渡せるよぉ!!」
本当嬉しそうだ。
「ほんなら早く寝ぇや、もう12時やで」
ケロが時計を指さした。ふと我にかえるさくら。
「えっ?。じゅ、12時?ぃ、ほぇぇぇ。早く寝ないと明日起きられないよぉ」
「いつもお寝坊さんやからなぁ、さくらは」
「もおぉ。明日は絶対、大丈夫だよ」
「そうゆうて、起きられたためし、あらへんがな」
お手上げポ−ズをとるケロ。
「そんなことないもん!」
ムキになって反論するさくら。
「ま、遠足とかいうときは、早よう起きるさくらやから何とかなるかもしれんけどな」
「もう、ケロちゃんたらぁ」
事実だけに苦笑いするしかないさくらだった。
「しっかし、恋する乙女ちゅうのは、ホント頑張れるもんやなぁ」
「えへへ」
ちょっと照れるさくら。
「こんなに寒いのに、上着も着ないでよう頑張ったな」
「一所懸命やっていたら気がつかなかったけど、今日はとっても寒いね」
「明日、雪でも降るんちゃうか?」
「雪かぁ・・・」
雪の中でチョコレートを渡すシーンを想像して、はにゃ〜んとなってしまうさくら。
「また始まったで」
いつものこととはいえ、やはりあきれてしまうケロだった。
「早よ寝んと、明日、本当に遅刻するで」
「そうだ」
その声に元に戻り頷くさくら。
「暖かくして寝ぇや」
「そうする」
「それじゃ電気消すで」
「うん」
電気を消すケロ。
「おやすみ、さくら」
「おやすみ、ケロちゃん」
ふとんに潜るさくら。
明日は、ちゃんと渡せるだろうか。不安と期待を交錯させながら想像にふけるさくら。しかし、それは長く続かなかった。今日一日の疲れがどっと襲い、ウトウトと眠りについていったのだった。
(3)
ひとりベットに眠るさくら。
ふと目を開けるとそこは、真っ暗闇の世界が広がっていた。そして寒気を感じた。
「さ、さむいよぉ・・・」
まるで自分が自分でないような不思議な感覚・・・。
不安になったさくらは、無意識のうちにケロを呼びかける。
「ケロちゃ〜ん、ケロちゃ〜ん」
その呟きに返事は無い。
なぜか、さくらの声は真っ暗闇にかき消されてしまっているようだ。
それでもさくらはそのことに気がつかないかのごと呟く。
「さ、さむいよぉ・・・」
「さくらー、さくらー」
心配そうにうなされているさくらの顔を覗くケロ。
「う、うんん」
ようやく気がついたようだ。さくらが反応した。
「け、ケロちゃん?」
「大丈夫か?さくら。うなされとったで」
「う、うん」
「なんか寒い・・・」
「顔色悪いなぁ、顔蒼いで」
「なんか、気分が悪いの」
確かにさくらの表情には生気が感じられない。
ケロがさくらのおでこを触る。
「ゲッ!熱あるで」
「だ、大丈夫だよ」
「大丈夫やないで」
そこまでケロが言ったとき、部屋をノックする音が響いた。
慌ててぬいぐるみのフリをするケロ。
部屋の扉が開き、桃矢が顔をだした。
「さくら。朝ごはんできてるぞ。ん?」
さくらの表情がおかしいことに気づく桃矢。ベットに近づき、さくらの脇にかがみ込んだ。
「どうした、さくら」
「なんでもないよ、おにいちゃん」
「顔色悪いぞ」
「大丈夫・・・」
桃矢がさくらのおでこに手をあてる。
「凄い熱じゃないか、今冷やすモノもってくるから大人しくしていろ」
「だ、大丈夫だよぅ」
「いいから寝てろ」
そう言うと立ち上がり、早足に部屋を出ていった。
タンタンタン。
階段を上がってくる音がした。ひとりではないようだ。
コンコン。
「はい」
バタッ。
扉が開く。藤隆だ。溺愛というわけではないが、さくらと桃矢をこよなく愛する素敵なおとうさんである。
「さくらさん、熱があるって桃矢くんが言っていましたけど」
「ちょっとだけだよ。今から準備して朝ごはん食べにおりるから」
「あまり無理はよくありませんよ。今日は学校お休みしましょう」
(そ、そんなぁ、雪兎さんにチョコわたせないよう・・・)
焦るさくら。学校に行けなければ雪兎にチョコレ−トが渡せない!
「えっ、学校行けるよ、大丈夫だよ」
藤隆はそっと、さくらのおでこを触った。
「んん。熱がかなり、ありそうですね。これでは1日持ちませんよ」
「おとなしくしていれば大丈夫だよ。だから行く」
普段は、そんなことは言わないさくらであったが、今日はどうしても譲れない事情があるのだ。
「困りましたねぇ」
さくらの意外な言葉に困惑する藤隆。
「迷惑掛けないから、ね」
そう言いながら起きあがろうとしたさくらであるが、めまいがして起きあがることが出来ないでいた。
「さくらさん」
普段あまりわがままを言わないさくらだけに藤隆は少しだけ驚いたようであるが、それでもさくらちゃんの責任感の表れだと思い、やさしく諭すのだった。
「もし、さくらさんが大丈夫だとしても、知世さんやお友達に風邪をうつしてしまったらどうします。さくらさんだけでなく、まわりの知世さんたちがつらい思いをすることになるのですよ」
「ううん」
さくらも知世ちゃんたちにつらい思いをさせるのは絶対にやだ!とは思う。でも、今日行かないと雪兎さんにチョコレートを渡せない・・・。
さくらの心の中で二つの気持ちが戦っていた。
しかし、さくらは優しい女の子である。
「わかった。今日はお休みする」
やはりみんなに迷惑になるような事は出来ない。そう思い、チョコレートを直接渡すことを諦めたさくらであった。
「さくら」
それまでじっと見ていた桃矢が話しかける。
「なに、おにいちゃん?」
「心配するな。ゆっくり寝てろ」
「へっ?」
「安心しろ。おまえの心配、解決してやっから」
「おにいちゃん?」
「ま、そういうことだ。それじゃな」
桃矢は、ぶっきらぼうにそれだけ言うと部屋を出ていってしまった。
「おにいちゃん?」
要領を得ないさくら。思わず、同じ台詞を繰り返してしまうのだった。
「じゃ、学校に電話しておきますね」
「う、うん」
「あとでお粥とお薬、持ってきますから。それまでゆっくりお休み」
にっこり微笑むと、藤隆もお粥の用意をしに、部屋を出ていった。
(どういうことなんだろ?、おにいちゃん)
桃矢の言葉を考えようとしたさくらであったが、発熱のためもうろうとしてしまい、ゆっくり考える間もなくウトウトと眠りについてしまった。
(4)
あれから数時間経っただろうか。朝から再び眠りについていたさくらが、目を覚ました。
少しめまいが残っているが、寒気は感じない。寝汗をかいて熱が下がったようだ。
ただ、汗のせいで肌触りがとても気持ち悪く、冷たい。
「目が覚めましたか?」
藤隆が微笑みかける。
「おとうさん」
藤隆はずっとさくらのもとで看病していた。一度、お粥と薬を持って来たのだが、さくらが眠ってしまっていたので、そのまま側についていたのだ。
「気分はどうですか」
「少し良くなったみたい」
「熱も汗をかいて、だいぶ下がったようですね。少し何か食べますか?」
「うん」
「では、今からお粥を準備しましょう」
「でもぉ、そこにあるのは?」
さくらが机の上に置いてあるお盆に気がついた。
「あれは冷めてしまいましたから」
「そうなんだ」
おとうさん、ずっといてくれたのかなぁ。ふとそんなことを考えるさくらだった。
「おとうさん、お仕事は?」
「あぁ、今日は講義も無いし、自宅の資料の整理をしたいと思っていたからね」
休んだ、とは言わない藤隆である。
「そうだ、さくらさん、寝間着が汗でぐちょぐちょですね。着替えましょう」
そういうと藤隆はさくらに新しい寝間着を差し出した。
「うん」
「それじゃあ、お粥作ってきます。それまでに着替えておいてくださいね」
藤隆はそう言い残すとお粥をつくりに下へ降りていった。
着替えをするさくら。
着替えながら、ふと外を見る。
「今日、雪が降ったんだぁ」
外はあたり一面、銀世界だった。普段のさくらなら小躍りして喜んだだろう。しかし、今日のさくらは到底そんな気持ちにはなれなかった。
「チョコレート、今年は渡せなかった・・・」
さくらの沈んだ気持ちを知って知らずか、どんよりとした空からまた、小雪が舞い降りてきたのだった。
着替えが終わったころ、机の引き出しからケロが出てきた。
「あ、ケロちゃん」
「はぁ、父ちゃんずっとさくらの側におるねん、わい、ぬいぐるみのフリするの大変だったで」
「ふふ。で、どうしたの?」
「一度、降りてった隙に引き出しに潜り込んだんや」
「ふうん、でもまたすぐ戻ってくるよ」
「そうやなぁ」
そんなことを話しながら、さくらはベットに戻っていく。
ベットについたそのとき、
コンコン。
部屋をノックする音が響いた。
「ケロちゃん!隠れて」
さくらがこっそり叫ぶ。あわてて隠れるケロ。
「はい、どうぞ」
さくらが答えると、扉が開いた。
「えっ?」
さくらは、予期せぬ出来事に驚き、固まってしまった。
部屋に入ってきたのは、藤隆でなく雪兎であったからだ。
「さくらちゃん」
「ゆ、雪兎さん?」
さくらはそう答えるのが精一杯だった。
雪兎は、さくらの寝ているベットの脇にかがみこみ話し始めた。
「風邪、ひいたんだって?」
「は、はい」
「熱とか大丈夫?」
「は、はい、少しさがりましたから・・・」
「そっか、よかったぁ」
にっこり笑う雪兎。
雪兎の笑顔に、やっと我にかえり、体を起こすさくら。
「だめだよ、寝てないと」
「だ、大丈夫です。少しなら」
「でも、あまり無理しちゃだめだよ」
「はい・・・、でもどうして?」
「桃矢が、さくらちゃん、風邪引いて寝込んでいるから見舞ってくれないかって」
「おにいちゃんが・・・」
「うん」
お兄ちゃん、雪兎さん、連れてきてくれたんだぁ。ありがとう、おにいちゃん。
さくらは心の中で感謝するのだった。
「ゆ、雪兎さん」
「何?。さくらちゃん」
雪兎がにっこり微笑む。
「雪兎さんに渡したいモノが・・・」
そこまで言うとベット脇の時計の隣に置いてあった袋を手に取った。
「これ、雪兎さんに・・・」
袋を差し出すさくら。
「僕に?」
「はい」
受け取る雪兎。
「開けていい?」
「はい」
袋を開けると、その中には、さくらが編んだマフラーとお手製のチョコレートが入っていた。
マフラ−の色は、ややオレンジがかった黄色。ケロちゃんとほぼ同じ色といえば、わかってもらえるだろうか。
「わあ、マフラーだ。これ、さくらちゃんが自分で作ったの?」
「はい」
「へぇぇ、凄いなぁ。よく出来てるね」
「い、いえ」
「大切にするね」
「は、はい」
さくらは、それだけ答えると頬を赤らめてしまった。
雪兎の方はいうと嬉しそうにマフラーを首にかけ、今度はチョコレートの包みを手に取った。
「こっちも開けていい?」
さくらは、コクッと頷くと、緊張の面もちで雪兎を見つめている。
一所懸命作った。味見もした。とはいえ、雪兎は本当に喜んでくれるだようか。それだけは、判らない。さくらはちょっとだけ不安な気持ちになっていた。
そんなさくらを目の前にして、雪兎は、おもむろに包みを開けた。
すると雪兎の表情がパッと輝いた。
「わぁ、ハート型チョコレートだ!。これも、さくらちゃんのお手製?」
「は、はい」
さくらお手製のハート型チョコレート。
大きさは15センチくらい。ホワイトチョコレートで、
『ゆきとさんへ・さくらより』と書いてある。
実のところ、去年と何ら変わるところは無いのであるが、去年は、誤って割ってしまったので、雪兎の前でちゃんとハート型なのは、初めてなのだ。
「今日は・・・。バレンタインデーだから・・・」
さくらが呟く。
すると雪兎がとびきりの笑顔でさくらに微笑みかけた。
「本当にありがとう。さくらちゃん」
「はい・・・」
もうさくらは真っ赤である。
「でも、嬉しいなぁ。今年もさくらちゃんから貰えるなんて」
「ほ、ホントですか」
「うん、もちろん」
「雪兎さん、毎年いっぱい貰っているから・・・」
「でも、一番嬉しいのはさくらちゃんからのだよ」
「ゆ、雪兎さん・・・」
ほとんど、声になっていなかった。嬉しさのあまり、溶けてしまいそうなさくらであった。さくらの心の中はまさに、はにゃ〜ん状態。風邪をひいたことも忘れて幸せ絶頂のさくらであった。
(今年も受け取ってくれた!。雪兎さんが一番嬉しいって言ってくれた!嬉しい!!)
バレンタインデーの午後、先程までの小雪がウソのように、雲間から日が射してきて二人のことを照らすのだった。
(5)エピローグ
「よかったですわね。さくらちゃん」
「うん」
知世がお見舞いに来ている。
「今日、お休みでしたからダメかと思っていましたの」
「私も。でもおにいちゃんが、雪兎さんを呼んでくれて」
「お兄さま、優しいのですね」
「うん」
いつもは、いじわる!とか思っているさくらであったが、今は素直な気持ちでありがとうと感謝するのだった。
「そうそう、さくらちゃん。これ、一番大切な人に」
知世は微笑みながらさくらにチョコレ−トを差し出した。
「知世ちゃん、ありがとう。とっても嬉しいよ」
嬉しそうに受け取るさくら。
「わたしも嬉しいですわ」
知世もにっこり微笑むのだった。
2月14日は、特別な日。大好きな人に「あなたが好きです」って伝える日。
大好きって気持ちをチョコレートと一緒に渡せる日。
お誕生日も大事、お正月も大好き、クリスマスも素敵。
でも、恋する人たちにとって一番大切なのは、2月14日のバレンタインデー。
あなたの好きな人が、あなたを好きでいますように。あなたの恋が叶いますように。
今日が全ての人にとって素敵な日になりますように・・・。
今日は、聖バレンタインデー。
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