夏である。全国平均的に夏真っ盛りである。
大道寺家も、もちろん夏である。
でも知世の部屋にはクーラーがあるのである。
けだるい午後2001 〜ともよ〜
とは言っても、クーラーはつけてなかった。
窓を開けておけば、そよ風が涼しいのだ。全く大豪邸はこれだから困る。
「そう言われましても、こちらも困りますわ」
あ、知世さん、こっちは気にしないで。
「はい」
というわけで、知世の部屋には本人ともう一人、小狼がいた。知世は相変わらずさくらの衣装を作っている。小狼は読書中だ。
ここは、夏の暑さとは無縁だった。いわば避暑地のような空気がここにある。
「しかし、この部屋は涼しくていいな」
本から目を外して小狼が言う。香港の自分の部屋と比べているのだろう。
「風通しがいいですからね。今日ぐらい湿度の高い日でも快適です」
にっこり笑って知世。一息置いて、
「さくらちゃんは今ごろ大変でしょうね」
「なにがだ?」
「あそこはここほど涼しくないでしょうから」
ああそうか、と小狼は納得する。
今日は留守番だから外出できないと言っていたし、体に悪いからクーラーもかけないと言っていた。
「暑がってるんだろうな…」
「恐らく、溶けてらっしゃいますわね!」
キランと瞳を輝かせて言う。小狼はギョッとしながらも、
「溶けはしないだろう? 確かに蒸し暑いけど、普通にしているんじゃないのか?」
「いいえ、九分九厘溶けていますわ。床の上でたれたれになっていると思われます」
「たれたれって…(^^;)」
苦笑。そんな彼を知世は悪戯っぽく見つめて、
「それなら、確認してみます?」
小首を傾げる。
「確認?」
「携帯電話に電話してみるのがよろしいかと…」
そう言って、テーブルの上の携帯電話を見る。
「でも、用もないのに電話したら迷惑だろう?」
「あら、用ならありますわ。今現在の木之本家の状態確認です。……それに」
ふふ、と笑う。
「さくらちゃんからすれば、全然迷惑じゃないと思いますけど(^▽^)」
「そ、そんなことは……ないと思うが……(////)」
ぼ! っと赤くなる小狼を見て、知世はだめ押しにかかる。
「あぁ! 今ちょうどお裁縫で手が放せませんわ! 本当でしたら発案者の私がお電話をしなければならないのに! ……残念ですわ〜」
チラチラと電話と小狼を交互に見る。彼女の言いたいことは、彼には十分わかっていた。
「……はぁ。……わかったよ。でも、ちょっと話したらすぐに切るからな」
「そのちょっとが大切なんですわ」
聞こえないように呟いた。
小狼は渋々電話を取り、メモリーの中からさくらの携帯番号を探す。程なくして。
つるるるる、つるるるる、と呼び出し音。そう何度も鳴らないうちにさくらが出た。
いつも元気なさくらの声。小狼は思わず微笑んでしまいながら、第一声をこう伝えた。
「床で溶けてちゃダメだぞ、さくら…」
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